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【裏】ロシア政治経済ジャーナル No.5
2020/3/31
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★原油価格はなぜ下がる?米サロ、オイル三国志の行方
全世界の裏RPE読者の皆さま、こんにちは!
北野です。
今回は、「原油価格が下がっている理由」についてです。
二つ理由があります。
一つは、皆さんご存知のように、新型コロナウイルスの影
響。
新型コロナウイルスで、なぜ原油価格が下がる?
原油、石油製品の消費が激減するからです。
たとえば、どこも入国制限だらけなので、飛行機で移動す
る人が激減している。
どこも外出制限だらけなので、自動車で移動する人が激減
している。
工場もストップしているところが多く、エネルギーを使い
ません。
要するに、皆家に引きこもっていて、エネルギー消費量が
激減する。
だから、原油価格が下がる。
もう一つの理由を、これからお話します。
私は、「オイル三国志」と読んでいます。
オイル三国志とは、石油大国、アメリカ、サウジアラビア、
ロシアの戦いです。
▼オイル三国志とは?
まず、基本からおさえておきましょう。
英石油大手BPのデータによると、2018年、1日あたりの原
油生産量は、
1、アメリカ 日量 1531万1000バレル
2、サウジアラビア 日量 1228万7000バレル
3、ロシア 日量 1143万8000ばれる
4、カナダ 日量 520万8000バレル
このランクを見ると、日量1000万バレルを超えているのは、
アメリカ、サウジ、ロシアの3国だけ。
4位カナダは、3位ロシアの半分以下でしかない。
それで、「オイル四国志」ではなく、「オイル三国志」と
いうのです。
▼アメリカの大革命
もう一つ。
この三国の中で、もっとも驚くべき存在はアメリカです。
というのも、この国は20年前、「我が国の石油は、2016年
に枯渇する!」と怯えていた。
ブッシュ(子)が大統領に就任したのは、2001年です。
彼は、まずアフガニスタンを攻撃し、その後イラクと戦争
を開始しました。
アフガンについては、「9.11」の報復、つまり「個別
的自衛権の行使」ということで、ほとんど批判されていま
せん。
しかし、イラク戦争は、大いに非難されました。
ブッシュは、「イラクは、9.11を起こしたアルカイダを支
援している!」「イラクは、大量破壊兵器を保有している
!」と主張し、攻撃を開始した。
ところが、この二つの理由は「大うそ」だった。
こちらを、熟読してください。
<米上院報告書、イラク開戦前の機密情報を全面否定
[ワシントン=貞広貴志]米上院情報特別委員会は八日、
イラク戦争の開戦前に米政府が持っていたフセイン政権
の大量破壊兵器計画や、国際テロ組織アル・カーイダと
の関係についての情報を検証した報告書を発表した。>
(読売新聞2006年9月9日)
<報告書は『フセイン政権が(アル・カーイダ指導者)
ウサマ・ビンラーディンと関係を築こうとした証拠はな
い』と断定、大量破壊兵器計画についても、少なくとも
一九九六年以降、存在しなかったと結論付けた>(同前)
では、一体何が本当の理由だったのでしょうか?
諸説ありますが、FRBのカリスマ・グリーンスパン元議
長は、こんな衝撃的発言をしています。
<「イラク開戦の動機は石油」=前FRB議長、回顧録
で暴露
[ワシントン17日時事]18年間にわたって世界経済
のかじ取りを担ったグリーンスパン前米連邦準備制度理
事会(FRB)議長(81)が17日刊行の回顧録で、
二〇〇三年春の米軍によるイラク開戦の動機は石油利権
だったと暴露し、ブッシュ政権を慌てさせている。>
(2007年9月17日時事通信)
グルーンスパンさんが、「イラク開戦の動機は【石油利
権】だったと暴露した。
背景には、「2016年にアメリカ国内の石油が枯渇する」
という恐怖があったのです。
ところが、オバマさんが大統領に就任した09年頃から状
況が変わっていきます。
そう、「シェール大革命」が起こった。
その結果、アメリカは、「石油が枯渇する心配」が不要
になりました。
それだけでなく、アメリカは今や、「世界一の産油国」
になった。
さらに、この国は、世界一の「産ガス国」でもあります。
▼原油価格の推移
原油価格は、ロシアがデフォルトに陥った1998年、1バレ
ル10ドル台まで下がりました。
しかし、プーチンが大統領になった2000年頃から右肩あが
りで、上がっていきます。
アフガン、イラク戦争で、中東情勢が荒れていたことが大
きな要因でした。
2008年の夏、つまりリーマンショックが起こる直前には、
なんとバレル140ドル台まで暴騰していたのです。
しかし、同年9月、リーマンショックから「100年に1度の
大不況」がはじまった。
原油価格は、大暴落し、バレル30ドル台まで下がりました。
その後持ち返してきましたが、リーマンショック前の水準
に戻ることはありませんでした。
主な理由は、シェール革命で、原油供給量が増えたこと。
ここ数年は、おおむねバレル50~80ドルあたりで推移して
きた。
しかし、3月29日時点で、バレル25ドルまで下げています。
一つ目の理由は、「新型コロナウイルスによる消費減」で
した。
もう一つは?
▼原油暴落、二つ目の理由
もう一つの理由とは、これです。
↓
<OPECと非加盟国、減産強化で合意できず ロシア抵抗
日経新聞 2020/3/7 0:44 (2020/3/7 5:42更新)
【ウィーン=飛田雅則】石油輸出国機構(OPEC)とロシア
など非加盟国は6日、ウィーンで閣僚級会合を開いた。
減産量を追加する案や、3月末に期限を迎える現行の枠組
みの延長についても協議したが、合意できなかった。
新型コロナウイルスが石油需要に影を落とすなか、OPEC盟
主サウジアラビアが減産強化を主張したが、石油市場でシ
ェア低下を恐れるロシアが反対し溝が埋まらなかった。>
この記事には、「サウジが減産を主張し、ロシアが拒否し
た」とはっきり書いてあります。
OPEC(石油輸出国機構)は、原油価格を高く保つために、
生産調整をするための組織。
ロシアはOPEC非加盟ですが、原油価格の暴落を防ぐため、
2017年1月から「協調減産」を行っていました。
サウジが価格を上げるために減産を主張するのは理解でき
ます。
では、なぜロシアは、同意しなかったのでしょうか?
日経新聞3月6日。
<国営石油会社の最大手であるロスネフチは、OPECプラ
スの枠組みからの完全離脱を主張したという情報まで、
一部で流布している。
ロシアの石油各社に共通するのは、協調減産が3年以上
に及んでいる結果、各社それぞれの中期経営計画、投資
や生産の計画が束縛され続けているという不満だ。
減産を続けたら世界市場でのシェアを減らすだけという
不満もくすぶり、ロスネフチには成長戦略の柱でもある
北極圏の石油資源の本格開発に早く着手したいという事
情もある。>
ロスネフチのCEOで、プーチンの親友セーチンが、減産
停止を主張したと報じられています。
▼サウジーロシア原油戦争勃発
その後何が起こったか?
サウジアラビアはロシアの態度に激怒。
二つの行動を開始しました。
一つは、価格を維持するための減産ではなく、逆に増
産した。
つまり、「原油価格を意図的に下げる行動」に出た。
日経新聞3月18日
<石油輸出国機構(OPEC)の盟主サウジアラビアが主導し
た減産の強化に、非加盟の主要産油国ロシアが同意せず、
「OPECプラス」の協調体制は崩壊した。
サウジが一転して増産に動いたため、原油価格は暴落し、
石油市場の混乱は世界の株価急落の一因にもなっている。>
そればかりではありません。
サウジは、ロシアの顧客に、「大幅な割引」を提示し、
ロシアからサウジへの「乗り換え」を提案しています。
<注目すべきは、欧州向けの値引きだ。
ロシアの主要な輸出先でもある北西欧州向けの4月の調整
金は、前月より8ドル引き下げる空前のディスカウントに
なった。
サウジの狙いは欧州市場でロシアからシェアを奪うこと
だろう。
指標となる北海ブレントの16日の終値は1バレル30ドル台。
調整金を加えると足元の販売価格は22ドル台になる。>
(同上)
なぜ、サウジは、「過激」ともいえる、このような措置に
出たのでしょうか?
<(ムハンマド)皇太子は、なぜそんな指令を出したのか。
ぎりぎりまでロシアとの妥協点を探ろうとし、5日には同
国のプーチン大統領に電話をかけた。
だが、ロシア側は多忙を理由に電話協議を断ったという情
報が流れている。
この日はプーチン氏がシリア北西部イドリブ県での停戦を
巡り、訪ロしたエルドアン・トルコ大統領と6時間あまりも
直接会談をしていた。
シリアのアサド政権との調整も含め、プーチン氏は確かに
多忙だっただろう。
だが、同氏の政治判断でロシアが歩み寄ると期待していた
皇太子は、電話協議が実現しなかったことに激怒したとも
いわれる。>
(同上)
独裁国同士の決定は、しばしば「独裁者の個人的な好悪」
で決まってしまうので、恐ろしいですね。
▼オイル三国志の行方は?
オイル三国志。
どうなるのでしょうか?
まず、アメリカ。
アメリカのシェールオイルは、損益分岐点がバレル40~45
ドル程度だといわれています。
つまり原油価格が40ドルを下回ると赤字に転落する。
それで、ロシアは、「アメリカのシェール企業をぶっつぶ
すために減産を拒否した」という説もあるのです。
だから「今回の原油安で、シェール企業が全部つぶれる」
という主張もあります。
これについて、知っておいた方がいい事実があります。
一つは、アメリカ経済にとってシェールオイルというのは
どうなのでしょうか?
この国のシェールオイル、シェールガス部門がGDPに占め
る割合は、1%程度である。
だから、シェール企業がどうなろうが、アメリカ経済全体
には影響を与えません。
その一方で、シェールオイル、シェールガスは、アメリカ
にとって【 戦略的に重要な部門である 】。
思い出してください。
シェール革命が起こるまで、アメリカは、「我が国の石油
は2016年に枯渇する」と恐れていた。
同じような状況に戻らないために、アメリカ政府は、シェ
ール企業を救済するに違いありません。
さらに、アメリカは、「シェールオイル、シェールガスを
絶対掘りつづけなければならない」
という必然性はありません。
原油価格が40ドルを下回ったら、中東からの原油輸入を増
やす。
原油価格が40ドルを上回ってきたら、国内の生産を増やす。
そういう融通が利くのがアメリカの強みです。
ロシア。
ロシアは、輸出の6割を石油、ガスが占めている。
原油価格暴落で、経済が大打撃を受けること確実です。
(ちなみに前回原油が大暴落した2009年のGDP成長率は、
マイナス7.82%でした。)
ですが、それでプーチン政権が揺らぐほどではないでしょ
う。
なぜでしょうか?
「原油価格が暴落しているのは、新型コロナウイルスのせ
いである」
とプロパガンダで信じさせることができるからです。
もちろん「新型コロナウイルス」は、原油価格暴落の原因
ですが、
既述のように、「唯一の原因」ではありません。
サウジ。
サウジは、無礼なロシアに復讐するため、原油価格暴落覚
悟で増産に踏み切りました。
さらに、欧州に「大幅な割引」を提示している。
しかし、現在のような価格が長引けば、サウジの財政が悪
化して、経済危機、政情不安になる可能性が高まります。
サウジ経済は、ロシア以上に原油輸出に依存しています。
(外貨収入の75%は、原油輸出。)
それで、もっとも脆弱であるといえます。
というわけで、アメリカ、ロシア、サウジのオイル三国志。
巷では、「シェール企業が一番負け組」といわれています。
普通に考えたらそのとおりでしょう。
しかし、国単位で見た場合、「石油依存が高い方が負け組」
といえる。
結局、打撃が大きい方から
サウジ > ロシア > アメリカ
という順番になります。
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