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     【裏】ロシア政治経済ジャーナル No.307_2


                       2024/11/1


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★プーチン【 最大の敵 】の生涯



全世界の裏RPE読者の皆さま、こんにちは!

北野です。

はやいもので、今日から11月。

今年も終盤になってきました。

今年も、本当にいろいろいろいろありました。

その中の一つに【 プーチン最大の敵 】と呼ばれた
アレクセイ・ナワリヌイが2月に獄死したこともあります。

日本ではあまり知られていないナワリヌイ。

どういう人だったのでしょうか?

なぜ彼は、【 プーチン最大の敵 】と呼ばれたのでしょうか?

それとも、それは大げさな表現だったのでしょうか?



▼「プーチン神話」を破壊した、ナワリヌイの人生



ナワリヌイは1976年生まれ。

ロシア一の政治系ユーチューバーでした。

チャンネル登録者数は、2024年2月時点で622万人。

大きな影響力を持っていた「反汚職基金」(FBK)の創設者でもあります。


1998年、ロシア諸民族友好大学法学部を卒業。

その後、ロシア連邦政府付属財政大学で、証券取引、為替などを学びました。

2010年、アメリカ、イェール大学に留学。

ナワリヌイは、はじめ「極右の活動家」でした。

2007年、極右団体の「国家ロシア自由運動」を創設しました。

2011年、政党「未来のロシア」を設立。

このころから、ナワリヌイは、プーチンや与党「統一ロシア」を
厳しく批判するようになっていきます。

ナワリヌイは、「統一ロシア」のことを、「詐欺師と泥棒の党」呼び、
この用語がロシアで大流行しました。


2013年、ナワリヌイは、モスクワ市長選挙に立候補しました。

私がナワリヌイに注目したのは、このころです。

ある親戚の誕生日に行った時、
ちょうど「モスクワ市長選挙で誰にいれるか?」という話になりました。

Dさんという、モスクワ大学哲学科の天才少女は、
「絶対ナワリヌイにいれる!」と主張していました。

Dさんのお母さんのJさんは、
「私は、プーチン支持だからソビャーニンにいれる」と言いました。

Dさんは、「プーチン政権は腐敗している!」「プーチンは独裁だ!」
などと厳しく批判し、「ナワリヌイが希望だ!」と大きな声で話していました。

私はDさんの話を聞いて、「ナワリヌイ、結構若者には人気があるのかな」
と思ったのです。


しばらくすると、私の家に、マンションの同じ階に住む、
リディアおばあさんがやってきました。

私の妻を呼び出して、「モスクワ市長選ではナワリヌイにいれてね!」
と頼んでいたのです。

私は、「ナワリヌイは、Dさんのような若者だけでなく、
リディアおばあさんのようなお年寄りにも人気があるのか!」と本当に驚きました。


モスクワ市長選の結果、1位はプーチンの側近ソビャーニンで、得票率は51%。

2位はナワリヌイで27%でした。

プーチンも、この時「ナワリヌイはあなどれないぞ!」と思ったことでしょう。



▼一本の動画で【 プーチン最大の敵 】になったナワリヌイ



さて、彼の名を全世界にとどろかせたのは、1本の動画でした。

2017年3月に投稿した、「オン・ヴァム・ニ・ディモン」
(彼は、あなたのディモンじゃないよ、意味は、メドベージェフは、
君が思っているほど、いいやつじゃないよ)という動画は、

メドベージェフ首相(当時)が複数の超巨大別荘を
所有していることを暴露していました。

これまでに、再生回数は4400万回を超えています。

@実際の動画はこちら。↓
https://www.youtube.com/watch?v=qrwlk7_GF9g&t=1s


ロシア語の動画なので、見たのはほとんどロシア人でしょう。

この国の人口は、約1億4600万人なので、
ロシア人の約三人に一人が見たことになります。

それで、「真相究明」を求める大規模デモが、ロシア全土で起こってきた。

ロシア政府は、デモ参加者の要求を、徹底的に無視しつづけることで、
この危機を乗り切ります。

しかし、国民の多くがプーチン政権に幻滅したことは間違いありません。


プーチンはこの事件で、「ネットメディアのパワー」を実感したのでしょう。

先の選挙の話でも触れましたが、ロシアのテレビは、
2000年代からプーチンの支配下にあります。

テレビで、プーチンの悪口は、一切聞かれません。

では、インターネットは、どうでしょうか?

プーチンは、ネットの影響力を過小評価していて、
かなり自由があったのです。

そして、インターネットは、テレビとは真逆で
「反プーチン派の勢力圏」になっていました。

ところが、ナワリヌイのメドベージェフ別荘群暴露動画以降、
ネット規制がどんどん厳しくなってきた。

そして、私自身の業務にも支障が出るようになってきました。

結果、私は2018年、「日本に完全帰国することを決意した」という流れです。

つまり、ナワリヌイの活動は、間接的に私の生活にも
大きな影響を与えたことになります。

こんな流れを見ると、ナワリヌイは、「プーチン最大の敵」と言っても、
過言ではありません。



▼【 プーチン神話 】を破壊したナワリヌイ 



さて、ナワリヌイは2020年8月20日、シベリアの都市トムスクから
モスクワに向かう旅客機の中で、毒殺されそうになりました。

飛行機は、オムスクに緊急着陸し、ナワリヌイは病院に運ばれた。

彼の妻ユリアさんは、「ロシアの病院にいると殺される」と思い、
ドイツでの治療を求めます。

8月22日朝、ナワリヌイは、オムスクの病院から、
ドイツ、ベルリンに搬送されました。

飛行機は、ドイツのNGO「シネマ・フォー・ピース財団」が
手配したと発表されています。

ドイツでの検査の結果、ナワリヌイ毒殺未遂に使われたのは、
神経剤ノビチョクであることが判明しました。

ノビチョクは、ソ連が開発した軍事用神経剤。

2018年に、ロシアの元二重スパイ・スクリパリと娘のユリア
殺人未遂事件の時にも使用され、全世界に衝撃を与えました。


ドイツで一命をとりとめたナワリヌイは2020年12月14日、


「事件は解決された。私は、私を殺そうとしたすべての人を知っている」


という動画を公開。

@実際の動画はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=smhi6jts97I


この動画の中で、ナワリヌイは、実行犯8人の名前と写真を公開。

そして、「このグループに殺人の命令を出しているのは、
プーチンだ」と断言しています。


これに対し、プーチンは2020年12月17日の記者会見で、


「毒殺したければ、毒殺しただろう」


と語り、容疑を否認します。

つまり、「ナワリヌイが生きていることが、私(プーチン)が無関係な証拠だ」と。

日本人には理解不能ですが、ロシアでは、このロジックが通用します。

ロシア人の多くは、プーチンのこの言葉を聞いて、
「確かにその通りだ」と思ったのです。


2020年12月21日、ナワリヌイは、新たに


「私は、殺し屋に電話した、彼は〔犯行を〕認めた」


という動画を公開します。

@実際の動画はこちら。↓
https://www.youtube.com/watch?v=ibqiet6Bg38


ナワリヌイは、パトルシェフ元FSB長官、安全保障会議書記(当時)の
補佐官マクシム・ウスティーノフと名乗り、実行犯の「容疑者」に電話しました。

そして、「容疑者」クドゥリャフツェフは、飛行機が緊急着陸したオムスクで、
ナワリヌイの服を回収し、毒が発見されないように洗ったことを認めたのです。

また、ナワリヌイの下着(パンツ)に毒が塗られたことを認めました
(彼自身が毒を塗ったわけではないが、計画を知っていました)。

さらに、クドゥリャフツェフは電話で、「なぜナワリヌイはまだ生きているのか?」
という質問に回答しています。

彼は、飛行機が緊急着陸せず、「もう少し長く飛んでいれば」
ナワリヌイは死んだだろうと語った。

ナワリヌイが生き延びたもう一つの理由は、緊急着陸した後
すぐ救急車がかけつけ、適切な治療をしてしまったからだと。

この電話で、プーチンの「毒殺したければ、毒殺しただろう」という
ロジックが成立しないことになりました。

つまり、FSBは毒殺を試みて、「失敗した」と。

ナワリヌイが2020年12月に投稿した二つの動画は、
少なくともネットの民に、大きな衝撃を与えました。


2021年1月18日、ドイツからロシアに帰国したナワリヌイは、
空港で逮捕されました。

1月19日、ナワリヌイの同志たちは、準備していた動画を公開。

その名は、


「プーチンのための宮殿。最大の賄賂の歴史」


簡単にいうと、黒海沿岸にある「プーチンの巨大別荘」に関する動画です。

@実際の動画はこちら。↓
https://www.youtube.com/watch?v=ipAnwilMncI&t=2205s


建設費用は、推定1400億円。

建物以外も入れた総敷地面積は、モナコの39倍だとか。

この動画はものすごいスピードで拡散され、
現在までに1億2900万人の人が見ています。

ロシア人の、「1.13人に一人」が見たことになります。

インターネットを使わない年配の人たち、子供たち以外は、
「ほとんど見た」といえる数でしょう。

これは、「プーチン神話」に対する最も強烈な攻撃でした。

なぜか?

日本人には理解しがたいですが、ロシア国民の多くは、



「プーチンは、真の愛国者で、クリーンな政治家だ」



と信じていたのです。

メドベージェフの汚職動画を見た後でも、
「周りは腐っているが、プーチンだけは違う」と思っていた。

ところが、この動画を見て、国民たちは「プーチンクリーン神話」が
ウソだったことを悟った。

この時点で「プーチン神話は崩壊した」といえるでしょう。

今まで、ロシア国民の多くは、プーチンに対して
「尊敬」「信頼」「愛」といった感情をもっていました
(これも、日本人には理解困難ですが)。

ところが、この動画を見てしまったら、
これらの感情を抱きつづけることは困難でしょう。


当時私は、(有料講座)「パワーゲーム」などで、


「これで神話による統治は難しくなる。
これからは「恐怖による統治の時代」になりますよ」


と語っていました。

予想通り、プーチンはその後、急速に凶暴化していきました。

プーチンがウクライナ侵攻を開始したのは、
この動画で神話が崩壊してから1年後でした。

偶然とは思えません。

何はともあれ、たった3本の動画でプーチン神話を根底から破壊したナワリヌイは、
2024年2月に獄死しました。

プーチンは、ナワリヌイが死んで「ホッ」としたことでしょう。

しかし、ナワリヌイが壊した神話は、もう元には戻りません。

プーチンは、今年3月の大統領選挙で圧勝しました。

それでもプーチン体制は、崩壊に向かっているのです。


なぜ私は今日、ナワリヌイの話をしたのでしょうか?

ナワリヌイ自身の最後の著書が発売になったからです。



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ロシアの裏側を知りたい方は、是非ご一読ください。




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