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     【裏】ロシア政治経済ジャーナル No.3


                      2020/2/29


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★米ロ、欧州ガス大戦争


全世界の【裏】RPE読者の皆さま、こんにちは!

北野です。


今日は、アメリカとロシアが、欧州市場をめぐって戦って

いるという話。

というか、アメリカが一方的に攻めているのですが。

まず、基本的な背景を解説し、

次に、「今何が起こっているのか」をお話します。



▼米ロガス戦争が起こった背景



まず基本的な情報を抑えておきましょう。

欧州は、どこから天然ガスを輸入しているのでしょうか?

2017年時点で、ロシアが39%、ノルウェーが30%、アルジ
ェリア13%。

ロシアのシェアが1位です。

ロシアの天然ガスは、どうやって欧州に届くのでしょうか?

主に、ガスパイプラインで。

そのパイプラインは、ロシアの西の隣国、旧ソ連国ウクラ
イナを経由します。


ウクライナ。

地政学的に、厳しい場所にあります。

欧州とロシアの間にある。

それで、大国群がウクライナを取り合うのです。

04年、この国で革命が起こりました。

「オレンジ革命」と呼ばれています。

結果、親米のユーシェンコ政権が誕生した。

彼はイケメン政治家で有名だったのですが、04年、突如
顔が激変しました。



ユーシェンコ顔の変化写真

彼は、ロシアにダイオキシンを盛られたと信じている。

もともと親米的な人ですが、この事件後、ロシアへの憎
悪は、燃え上がったはずです。

それでユーシェンコは大統領になると、しばしばロシア
と対立するようになりました。

その一つが、「パイプラインのトランジット料問題」。

彼は、値上げを求めしばしばロシアと対立し、折り合い
がつかない。

それで、ロシアのガスが欧州市場に届かない事態が時々
起こるようになった。

困ったロシア、そして、天然ガスを買う側の代表ドイツは、


「ウクライナを経由しないガスパイプラインをつくろう」


と画策するようになります。

2005年、ロシア、レニングラード州ヴィボルグとドイツ、
グライフスヴァルトをつなぐ海底ガスパイプライン「ノ
ルドストリーム1」の建設が開始され、2011年11月に完
成しました。

ロシアとウクライナの関係は、その後一時好転します。

2010年の大統領選挙で、親ロシアのヤヌコビッチが勝利した。

ところが2014年、またロシア、ウクライナ関係は悪化。

同年2月、ウクライナで、再び革命が起こった。

親ロ、ヤヌコビッチ大統領は失脚し、ロシアに政治亡命。

同年3月、プーチン・ロシアは、ウクライナ領クリミアを
併合し、世界を卒倒させました。

同年4月、ウクライナ親米新政権とウクライナ東部ロシア
派間で内戦が勃発。

ロシア、ウクライナ関係は、最悪になった。

それで、「ウクライナを経由するガスパイプラインは大丈
夫なのか?」

という話が再浮上してきた。

困ったロシアとドイツは、両国を直接結ぶ二本目の海底パ
イプライン建設を目指すことになります。

この新パイプラインを「ノルド・ストリーム2」といいま
す。

2016年から建設が開始されました。



▼アメリカの介入



ところが、このプロジェクトにアメリカが反対を表明しま
した。

なぜでしょうか?

理由は三つ考えられます。

一つは、ノルドストリーム2の完成で、ウクライナは、完
全に外される。

そうなると、アメリカが支援するウクライナは、トランジ
ット料を受け取ることができなくなり、大きな経済的被害
を被る。

二つ目、アメリカは、シェール革命で、「世界最大の産ガ
ス国」になったので、LNGを欧州に輸出したい。

しかし、ノルドストリーム2が完成すると、欧州市場に入
り込むのが難しくなる。
(アメリカ産ガスは、当然ロシア産より高い。)

三つめ、アメリカは大金を出して、ドイツや欧州諸国をロ
シアの脅威から守っている。

ドイツは、NATO加盟国。

NATOは29か国からなる反ロシア軍事ブロックです。

しかし、アメリカ政府は、「俺たちが28か国をロシアから
守ってやっている」という意識。

にもかかわらず、ドイツはガスを大量輸入することで、ロ
シアに大金を支払い、事実上経済援助している。

アメリカは2019年12月21日、ノルドストリーム2建設に参
加している企業群に制裁を科した。

これを受けて、海底パイプライン敷設を担当していた、ス
イス企業Allseasが建設を中止。

ノルドストリーム2は、90%以上完成していますが、制
裁で完工が大幅に遅れています。

しかし、ロシアとドイツの決意は固く、結局遅れても完成
することになるでしょう。

結果、アメリカとドイツの関係は、ますます悪化します。



▼大戦略から見たアメリカの動きの愚かさ



この話、要するにどういうことなのでしょうか?

1、天然ガスの安定供給をのぞむドイツとロシアは、不
安定なウクライナを外すため、「ノルドストリーム2」
の建設を開始した。

2、シェール革命で世界一の産ガス国になったアメリカ
は、独ロパイプライン計画を挫折させるために介入した。


結果はどうなのでしょうか?

アメリカの干渉に激怒しているのはロシアだけではあり
ません。

ドイツも「内政干渉だ!」と憤慨している。

結果、アメリカとドイツの関係は、悪化している。

ドイツとロシアの関係は、好転している。


これを、アメリカ大戦略の観点から考えてみましょう。

2018年7月から、米中覇権戦争がはじまりました。

もちろん現在も、この戦いはつづいています。

しかし、核大国同士の戦争は、「戦闘」ではなく、他の形
態で進んでいく。

・情報戦
・外交戦
・経済戦
・代理戦争

・情報戦で、アメリカは有利です。

中国は、「ウイグル人100万人を強制収容しているナチス
ドイツのような国だ」

という悪評が、広がっている。

新型コロナウィールスで、「中国悪魔化」はさらに進展し
ました。


・経済戦でも、アメリカは優勢。

関税戦争で、アメリカは中国経済に大きな打撃を与えてい
る。

しかし、「ファーウェイ戦争」で、アメリカは劣勢。

ロシア、ドイツに続きイギリスが「5Gにファーウェイ参
入を許可」したのは、大きな打撃でした。

ですが、「新型コロナウィールス」が中国経済に大打撃を
与えています。

この問題が長引けば、「中国は、マイナス成長になる」と
いう専門家も出てきました。


・代理戦争は、微妙。

台湾では、親米反中、蔡英文さんが再選しました。

香港は、新型コロナウィールスの影響で、デモどころでは
なくなった。

朝鮮半島では、文在寅が「レッドチーム」(中ロ北)入り
を切望していて、アメリカ劣勢。


全体的に「アメリカ有利」な印象ですが、いただけないの
が「外交戦」です。

トランプは、米中戦争を開始した。

それはいいとしましょう。

普通、どこかの国と戦争をはじめたら、他の国とは和解し
ます。

アメリカは、ナチスドイツと戦うために、スターリンソ連
と組んだのです。

主敵に勝つために、味方を増やし、敵国を孤立させる。

ところが、トランプアメリカは、ほとんどすべての国と仲
が悪い。

理由は、彼が「アメリカファースト」だからです。

彼は、日本、欧州と貿易戦争をしている。

日本、欧州、韓国に、「軍事費の大幅な引き上げ」を要求
している。

彼は、ドイツとロシアのパイプラインを阻止するために、
同盟国の企業群にすら制裁を科している。

彼は、中国とケンカしつつ、イランとケンカしている。

結果、アメリカは、ほとんどすべての国と仲が悪い。

それで、トランプが「ファーウェイを使うなよ」と笛を吹
いても踊ってくれません。

「特別な関係」であるはずのイギリスが、率先して裏切っ
ている状態なのです。

トランプは、レーガンを尊敬しているそうです。

そのレーガンは、日本、イギリス、西ドイツの首脳と良好
な関係を築き

一体化してソ連を崩壊に導きました。

一方、
トランプは、すべての国に「エゴ」(アメリカ・ファース
ト)を通そうとすることで、仲間を失っています。

2号でも書いたように、それでもアメリカは勝つでしょう。

ですが、本来「楽勝」できる戦いを、トランプという困っ
た指導者が長引かせている。

そういうことなのでしょう。



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