◆戦国時代を戦うプーチン
  2012年5月13日「国際派日本人養成講座」

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読者数4万人の超人気メルマガ「国際派日本人養成講座」(JOG)
(2012年5月13日号)は、「戦国時代を戦うプーチン」と題し、


「プーチン最後の聖戦」(→ http://tinyurl.com/8y5mya3 )


の書評を掲載しました。

(原文はこちら↓
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だけることでしょう。


以下転載させていただきます。


■■ Japan On the Globe(748) ■■ 国際派日本人養成講座 ■■

The Globe Now: 戦国時代を戦うプーチン
〜 北野幸伯著『プーチン 最後の聖戦』を読む

 プーチンはアメリカの覇権に命がけの挑戦状を叩きつけている。

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■1.「戦国時代に生きるロシア人」

「平和に慣れた日本人と、戦国時代に生きるロシア人では、あまりに思考法、発想法が違う」[1,p16]とは、ロシア在住の国際関係アナリスト北野幸伯(よしのり)氏の新著『プーチン 最後の聖戦』での一節である。

 この本では、いかにプーチンがロシアの最高権力者にのし上がり、アメリカの世界覇権に挑んでいるかが活写されている。それを読んでいくと、我が国の戦国時代に、武将たちがまさに命懸けで領国内の実権を奪い、天下を狙っていった様を思わせる。

 外交の世界では「平和的」「民主的」などの美辞で飾られているので、「平和に慣れた日本人」は国際社会でも同様かと思ってしまうが、プーチンの命懸けの戦いを辿ってみると、国際社会がいまだに戦国時代であることが、よく理解できる。

 そして、再び大統領としてカムバックしたプーチンがアメリカの覇権を打倒したら、我が国もまた戦国時代に投げ出されてしまうのである。


■2.ロシア戦国時代の風雲児

 ロシアでの命懸けの戦国時代を象徴するのが、ユコス事件だ。2003年10月、ロシアの石油王ホドルコフスキー(当時40歳)が、脱税などで逮捕された事件である。

 当時の彼の資産が150億ドルというから1兆円以上、ロシアで最大、世界でも16位の資産家だった。そもそも1991年のソ連崩壊から10年余りで、全員平等の(はずの)共産主義社会から、これほどの大富豪が生まれ、しかも逮捕されて没落する、というダイナミックさは、安定した日本社会では想像することすらできない。

 まずはどうして、こんな大富豪が生まれたのか見てみよう。1991年12月、新生ロシアは膨大な財政赤字を抱えており、初代大統領エリツィンはIMF(国際通貨基金)から、約226億ドルを借りた。

 IMFの貸し出しの条件の一つに「大規模な民営化を実施すべし」があった。ところが、共産主義社会では民営化しようにも、誰も国有財産を買う金を持っていない。

 そこで、ロシア政府は全国民に一定額のバウチャー(民営化証券)を配り、これで国民は民営化された国営企業の株式と交換できるようにした。ここまでは平等で良いのだが、一般国民は「バウチャー」とか「株式」と言われても、何のことか分からない。

 しかし、一部のめざとい人々は、その価値を知っていて、たとえばトラックにウォッカを大量に積んで、バウチャーと交換して歩く。人々は訳の分からない紙切れを出せばウォッカ1本貰えると知って、喜んで交換に応じた。

 こうして7つの新興財閥が誕生し、ロシアの富の50%を支配していると言われるまでになった。そのほとんどがユダヤ系である。

 ホドルコフスキーはメナテップ銀行を手に入れ、さらに国家に金を貸して、国が返せなくなると、担保にしていた石油会社ユコスを300億円で取得した。そして、このユコスの時価総額を3兆円まで増やした。

 アメリカはIMFの民営化条件によって、こうした新興財閥を勃興させ、間接的なロシア支配を企んだのだろう。そのシナリオに乗って、躍り出たのが戦国の風雲児ホドルコスフキーであった。


■3.飼い犬に手を咬まれた新興財閥

 ここでもう1人、風雲児が登場する。プーチンである。

 石油大手シブネフチや公共テレビORTを支配するユダヤ系新興財閥ボリス・ベレゾフスキーに取り入って、プーチンは首相に任命される。その取り入る過程で、いかにも戦国風のドラマチックなエピソードが紹介されているが、それは本書を読んでのお楽しみとしておこう。

 ベレゾフスキーは、操り人形としてプーチンを引き立て、エリツィンの後の大統領にまでしたのだが、プーチンは実権を手にした途端、新興財閥を次々と脱税容疑などで陥れていく。新興財閥側からみると、飼い犬に手を咬まれた形になる。

 ベレゾフスキーはプーチンの大統領選勝利の際はテレビORTを使って後押ししたのだが、今度はプーチンを攻撃し始める。2000年8月にフィンランドの北方バレンツ海で「ロシア原子力潜水艦クルスク」の沈没事故が起きると、「クルスク乗組員家族が苦しむ映像」と、黒海沿岸のソチで「休暇を満喫するプーチンの映像」を交互に流して、攻撃した。

 これに激怒したプーチンは、ベレゾフスキーとの最後の会談をする。これまた戦国風の劇的な対立で終わり、結局、ベレゾフスキーはロシアを脱出して、ロンドンに逃げた。ロシア政府は、再三彼の引渡しをイギリスに要求しているが、英政府は拒否している。

 新興財閥の親玉ベレゾフスキーまで失脚させられて、残る新興財閥は、プーチンに白旗をあげた。「ここ10年間の一番大きな過ちは、大企業が国の支配権を独占しようとしたことだと思われる」という声明を発表して、今後は本業に励み、政治には口出ししないと誓う。


■4.ホドルコフスキーの打倒プーチン

 しかし、新興財閥の一つ、ホドルコフスキーは、米英の支配者層と結託することで、プーチン政権を打倒し、自ら大統領になろうと考えた。

 同じユダヤ系の大富豪ロスチャイルド家の知遇を得て、その協力のもと「オープン・ロシア財団」を設立して、ロンドンや米国に事務所を設立した。「オープン・ロシア」とは、「プーチンを追放し、ロシアを開こう」という意味だ。

 さらにホドルコフスキーはブッシュ政権内の人脈作りに乗りだし、米国がイラク戦争を始めた直後、03年3月20日には「戦争はロシア経済にプラス」と述べて、明確に支持した。自国経済にプラスなら、他国での戦争も支持する、というあからさまな言い分は、いかにも戦国風で、平和ぼけした日本では絶対に口に出せないセリフである。

 一方のプーチンは2002年7月まで、「アメリカに接近することで、フセイン後の石油利権を確保しよう」と考えて、対米接近を図っていた。ソ連崩壊後、国力の落ちたロシアに覇権国家アメリカを止めることはできない。それならば、アメリカに寄り添って、「分け前」にあずかろうという魂胆であった。

 しかし、アメリカが「イラクの石油利権をロシアと分かつつもりはない」と明確な意思を表明してからは、プーチンは方向転換していく。

 プーチンは、同じ安保常任理事国のフランス、中国とともに、アメリカのイラク戦争を阻止し、その見返りにイラクの石油利権を確保することを目指した。それにロシア国内から異を唱えたのが、ホドルコフスキーだった。プーチンの怒りは想像に難くない。

 こうしてイラク問題を機に、反米にシフトしたプーチンと、米英の後ろ盾を求めたホドルコフスキーとの対立が先鋭化し始めた。[a]


■5.「プーチンはマジで世界の支配者たちと戦うつもりだ」

 さらにプーチン政権を驚愕させる行動を、ホドルコフスキーはとった。ユーコスと、米石油大手のシェブロンテキサコ、エクソンモービルとの資本提携を図ったのである。

 米メジャーがロシア最大級の石油会社に、法的拒否権を持つ形で入ってくると、事実上、米国務省、国防総省がユーコスの後ろ盾につくことを意味する。

 プーチンとホドルコフスキーの対立は、あくまでロシアを覇権下に置いておこうとするアメリカと、そこから抜け出そうとするロシアとのつばぜり合いであった。

 2003年10月25日、プーチン政権はホドルコフスキーを脱税などの容疑で逮捕した。北野さんは、これで「プーチンはマジで世界の支配者たちと戦うつもりだ」と悟ったという。[1,p138]

 これを機に、アメリカとロシアは「新冷戦」時代に突入する。新興財閥を屈服させ、ロシア国内の独裁を確立したプーチンは、アメリカの覇権に挑戦状を叩きつけたのである。


■6.反米の砦

 アメリカの逆襲も凄まじい。ソ連から独立したロシア周辺の諸国に次々と民主革命を仕掛け、親米政権を誕生させていく。

 2004年1月、グルジアのバラ革命、同年12月、ウクライナのオレンジ革命、2005年3月、キルギスのチューリップ革命と親米政権が誕生した。

 いずれも、議会選挙でロシア寄りの政権が勝った後で、選挙で不正があったと民衆のデモが発生し、再選挙で親米政権が逆転勝利する、というパターンが繰り返された。陰でアメリカ政府がバックアップするNPOが大量の金をばらまいて、デモを扇動していた。

 しかし、3度も成功すれば、アメリカの手の内は見透かされてしまう。2005年5月、ウズベキスタンで独裁者カリモフ大統領の辞任を求める大規模デモが発生すると、同大統領はこれを武力鎮圧し、アメリカが「ウズベキスタン支援停止」「民主化のための制裁」を唱えて非難しても、耳を貸さなかった。

 さらにウズベキスタン政府は、2005年7月30日、2001年のアフガン攻撃時から駐留していた米軍の180日以内の撤退を、正式に要求した。まさに絶交状である。

 実は、この7月5日、ロシアと中国、ウズベキスタンを含む中央アジア4カ国で構成する上海協力機構(SCO)で、中央アジア駐留米軍の撤退を要求するアスタナ宣言が採択された。ウズベキスタンの強硬な米軍撤退要求は、ロシアと中国の支持を背景にしていた。

 プーチンは、アメリカの覇権に挑戦するために、それまで仮想敵国だった中国との同盟を成し遂げ、上海協力機構を反米の砦にしていたのである。


■7.アメリカのアキレス腱・ドル基軸体制への攻撃

 外交面での反米戦略が上海協力機構だったとすれば、経済面での攻撃が、ドル基軸体制を揺るがすことだった。プーチンは2006年の国会での方針演説の中で、「石油などわれわれの輸出品は、世界市場で取引されており、ルーブルで決済されるべきだ」という爆弾発言をした。

 アメリカの対外債務は2004年当時で2.5兆ドル。世界の貿易はドルで行われているので、アメリカとしてはドル紙幣さえ刷れば、いくらでも輸入ができる。

 しかし欧州諸国がロシアから石油や天然ガスをロシア通貨ルーブルで買わなければならないとすれば、ドルの外貨準備を売って、ルーブルに変えなければならない。各国がそうすれば、ドルは暴落する。ドルの暴落は、ドル売りを呼んで、さらなる暴落をもたらすというドル基軸体制崩壊への循環に入ってしまう。

 上海協力機構の準加盟国として、中ロに守られているイランも、2007年、原油のドル決済を中止した。サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦など中東産油大国がつくる湾岸協力会議も、「イランがアメリカから逃げ切ることができれば、自分たちも決済通貨を変えてしまおう」と考えている。

 プーチンは、アメリカのアキレス腱であるドル基軸体制の崩壊への引き金を引いたのである。


■8.プーチン再び、そして我が日本は?

 2007年末、プーチンの大統領2期目が終わった。プーチンの8年間で、アフガン、イラク戦争と中東の不安定化を背景に、原油価格は30ドルから100ドルを超えるまでに上昇。膨大なオイルマネーがロシアにも流れ込み、ロシアのGDPは5倍となり、国民の平均収入も5.4倍に増えた。

 欧米諸国がいくら「プーチンは独裁だ!」と非難しても、ロシア国民のプーチン支持率は70%台を維持していた。

 プーチンは、後継者として子飼いのメドベージェフ第一首相を任命。2008年3月2日の大統領選挙で、メドベージェフは70%以上の票を集めて圧勝した。プーチンは、以後の4年間、首相として働くことになった。

 しかし、今度はメドベージェフが、英米の後援を得て、プーチンから離れようとする。まさに下克上の世界である。その一例が、国連安保理でのリビア攻撃を容認する決議案にロシアが拒否権を使わずに、成立させてしまったことだ。

 このメドベージェフの親欧米路線に対して、プーチンが公然と批判した。4年後、メドベージェフは再選への意欲を持っていたが、
プーチンに押さえ込まれてしまった。

 プーチンは2012年3月の大統領選に勝利し、大統領として戻ってきた。プーチンの再選に関しては、不正があったとして、ロシアの50以上の都市でデモが行われたが、プーチンは「アメリカ国務省の扇動だ」と非難して無視した。2004年以降のグルジアなどの革命を見て、プーチンには想定内の策謀だった。

 こうしてプーチンの3期目のアメリカ覇権への挑戦が始まった。プーチンが何を目指すか、ここまでの北野さんの分析を読んだら、読者にもある程度の想像はつくだろう。

 プーチンがアメリカに敗れれば、フセインやカダフィのような末路を辿る可能性がある。まさに「命がけ」の戦いである。

 しかし、もしプーチンが勝って、アメリカのドル基軸体制が崩れ去ったら、世界はどうなるか。プーチンは「肉を切らせて骨を切る」という戦略で、ロシアが生き残るための準備をしているそうだが、その時、我が日本はどうなるのか。

 アメリカの覇権下で安逸をむさぼりながら、ドル基軸体制での優等生ぶりを発揮してきた日本は、一挙に戦国時代に投げ出されてしまう。その事態に我が日本はどう備えるか、北野さんの本を読みながら、日本国民一人一人が考えるべき問題である。

(文責:伊勢雅臣)

■リンク■

a. JOG(382) 覇権をめぐる列強の野望
北野幸伯『ボロボロになった覇権国家(アメリカ)』を読む。
http://www2s.biglobe.ne.jp/%257Enippon/jogbd_h17/jog382.html

b. JOG(515) 石油で読み解く覇権争い
 北野幸伯著『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』を読む
http://www2s.biglobe.ne.jp/%257Enippon/jogdb_h19/jog515.html

c. JOG(565) ロシアから日本を見れば
 私達が抱いている自画像とは、まったく異なる国の姿が見えてくる。
http://www2s.biglobe.ne.jp/%257Enippon/jogdb_h20/jog565.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
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1. 北野幸伯『プーチン最後の聖戦』
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4797672250/japanontheg01-22/

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