ロシア政治経済ジャーナル No.643

2010/4/25号

★坂本龍馬と武市半平太の違い〜日本の進路

 

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       ロシア政治経済ジャーナル No.643

                         2010/4/25号

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★坂本龍馬と武市半平太の違い〜日本の進路


今回は、

「日本を守りたい!」という強烈な情熱をもちながら、志半ばで倒れた
武市半平太、

「薩長同盟」「大政奉還」をなしとげ、日本の新時代を切り開いた
坂本龍馬、


この二人の思想を比較することで、「日本の進路」を探ってみることに
しましょう。

(参考は「龍馬伝」)


▼現実主義と理想主義


まず前提になるお話をしましょう。

外交には、大きく二つの立場があります。

すなわち現実主義と理想主義。


現実主義について、私がいつもこんな風にいっています。


「すべての国は『国益』のために動いている」

「そして(外交上の)『国益』とは、主に『金儲け』(経済的利益)と
『安全の確保』である」


現実主義者で有名なのは、たとえばキッシンジャーさん。


この対極にあるのが「理想主義」。

理想主義というのは、言葉のとおり「理想を追求する」のです。

その代表格は、「友愛」をスローガンに掲げる鳩山さんでしょう。

あるいは、「核なき世界」を目指すオバマさんも理想主義。

その他には、「欧州共通の家」を目指したゴルバチョフさんもそう
でしょう。

また、「人権外交」を推進したカーター大統領も理想主義者です
ね。


▼実際の外交は?


では、実際の外交は「現実主義」なのでしょうか?

それとも「理想主義」なのでしょうか?

これは、リーダーの考え方で違います。


しかし、もっとも一般的なのは、



【 理想主義のフリをして、実は現実主義 】



というもの。

たとえば、アメリカは「中東を民主化する!」「独裁者フセインから
イラクの民を解放する!」などといいながら、イラクを攻めました。

これは理想主義です。

しかし、実際の目的は、


・フセインはイラク原油の決済通貨をドルからユーロにかえ、ドル
体制の脅威となっていたので、排除する

・(グリーンスパンが公言しているように)イラクの石油利権を独占
する


等々、現実主義的なのです。

そもそも、アメリカは「中東を民主化する!」などといいながら、「絶
対君主制」の独裁国家サウジアラビアと仲良しではないですか?


では、なぜ【 理想主義のフリをして、実は現実主義 】外交にな
るのでしょうか?

これは、国民と世界を納得させるためです。


「イラクの石油利権を独占するためには、イラク人が10万人死のう
が攻撃します!」


なんて本音をいっちゃうと、大部分の国民は支持してくれない。

しかし、


「独裁者フセインに虐げられているかわいそうなイラク国民を、解
放してあげましょう!」


といえば、「イエス!ウィーキャン!」と支持してくれる。


日本みたく、「表も裏も『理想主義』」という国は、世界で一国しか
ないのです。


▼幕府の立場・半平太の立場


1853年、ペリーの黒船艦隊がやってきました。

幕府は、アメリカの武力をおそれ、鎖国をとき、開国します。


「なんだ!幕府は外国のいいなりか!」


全国で外国人追放を目指す「攘夷運動」が盛り上がっていきます。

仕方ないです。

だって、実際欧米列強は、世界を植民地にしていたのですから。

ほっておいたら、日本だって植民地化されてしまいます。


攘夷運動は、「幕府はダメだ!これからは京のミカドを中心に」と
いう「尊王」運動とセットになっていた。

それで、「尊王攘夷」運動というのです。



さて、坂本龍馬の親友・武市半平太は、土佐藩・攘夷派の中心に
なっていました。

天皇陛下の使いとして江戸にのぼり、幕府に「攘夷決行を急ぐよう
に」と催促します。


これに対し幕府の本音は、


「攘夷を決行すれば欧米と戦になる。

戦になれば日本に勝ち目はない・・・」


というものでした。

日本の軍事力は当時、欧米列強に劣っていました。

そもそも黒船がない。

幕府の判断は「現実主義的」といえるでしょう。


幕府の煮え切らない態度に激怒した半平太は、軍艦操練所の代
表・勝海舟のところに行きます。

勝海舟は、地球儀を見せながら、イギリスやアメリカがいかに強大
かを説明しようとします。

半平太は、勝をさえぎりいいます。



「相手が誰やち、神州・日本の土を汚す者は許しませんき」



つまり、「相手がアメリカだろうがイギリスだろうが、外国人がくると
神の国日本の土が汚れるので許さない!」といっている。

半平太の頭には、「勝てるだろうか?」「負けるだろうか?」という
計算がいっさいない。

真正の「理想主義者だった」といえるでしょう。


幕府=現実主義

半平太=理想主義


これに対し、龍馬はどうだったのでしょうか?


▼現実主義と理想主義で歴史は前進しない


まず、理想主義の欠点をあげましょう。

理想主義者・半平太の欠点は、いうまでもなく「現実的でない」こと。

彼は「刀で黒船に勝てる」と思っている。

どう考えても無理。


このように、いくら高尚な理想があっても、あまりにも現実離れして
いると、実現しません。


では、現実主義はどうなのでしょうか?

現実主義者は、理想主義者と異なり、世の中を「あるがまま」にみ
ます。

そして、現実的解決を目指す。

当時の幕府の場合、「欧米列強と日本の軍事力はあまりに違うか
ら、従うしかない」

というのが、現実主義的解決策。


ところが、実はこれ、解決策になってないんですよね。

欧米列強のいいなりをつづけていれば、いずれ世界の大部分の国
と同様植民地にされるにきまっている。



そして、考えてみればわかりますが、世の中全員が現実主義者だっ
たら、歴史は前進していきません。

たとえば、


・「現実主義者」の幕府は、「欧米列強のいうことを聞く」という「現実
的」判断をくだしました。

結果、日本は英仏の植民地になりました。


・アメリカにわたったイギリス人たちは、皆「現実主義者」でした。

それで、勝てる見込みの少ない独立戦争はおこしません。

結果、アメリカは今もイギリスの植民地です。


・明治政府は皆「現実主義者」でした。

それで、「日ロ戦争」はやめました。

ロシアは、まず朝鮮半島を支配下におさめ、その後日本列島を植
民地化しました。


どうです?

やはり、「現実主義」だけでも、パッとしないことがわかるでしょう。

では、どうすればいいのでしょうか?


▼龍馬の答え


さて、半平太は勝海舟に幻滅し、江戸を去ります。

勝のところに、今度は龍馬がやってきます。(2度目)


龍馬は勝に質問します。



龍馬「勝様は、日本が戦になったら勝てるとお思いですろうか?」



龍馬は、勝海舟が半平太のような「非現実的理想主義者」かどう
かはかったのです。

これに対し勝は、



勝「思わねえ。異人には勝てねえ」



と答えます。

とりあえず、「非現実的理想主義者」ではないことがわかりました。


龍馬はさらに聞きます。



龍馬「そんなら、日本は異国の属国になっても仕方がないと」



龍馬は、勝が「敗北的現実主義者」なのか聞いたのです。

勝は、



勝「冗談じゃあねえ、奴ら(異人)の勝手にはさせねえ」



と答えます。

勝海舟は、大部分の幕府のお偉いさんとは違い、「日本の『属国化』
を容認しないだけの「気概」はあるらしい。

龍馬はさらに聞きます。



龍馬「ほんなら、どうしたらええとお思いですろうか?」



実は、龍馬自身もこの質問の答えがわかっていなかった。

彼の長年の煩悶は、ここにあったのです。

龍馬は、「刀では黒船に勝てんぜよ」と思っていた。

しかし、「ではどうすれば日本を異国の侵略から守ることができるか?」
という現実的方策が見当たらなかった。


勝はすぐ答えを与えず、龍馬に問いかけます。



勝「おまえさん、どう思うね?」



ここから、勝と龍馬の長い問答がはじまります。

勝は、自分で答えを出して欲しかった。


龍馬「日本は島国ですろう。四方を海に囲まれちゅう。

異人らは海から来るわけですき、やっぱり一番大事なのは軍艦です
ろう。

強い海軍が必要ですろう」


勝「ほんじゃあ、海軍をもってどうするね?」


龍馬「今日本が異国のいいなりになっちょるがは、戦をしたち、負け
ることがわかっちゅうからじゃ。

けんど海軍が、強い海軍があれば、

誰ちゃあに負けん剣の腕があれば、戦にはならんぜよ。

そうじゃ、日本はもう開国しちゅうき、異国の技術を学んで、どんどん
どんどん日本の軍艦をつくったらええがじゃ。

ほんで、他のもんもどんどんどんどん取り入れて、異国にはりあえる
ほどの、文明を手に入れることができたら・・・。

日本は安泰となるがじゃ。

そうじゃ、戦をせんでも、攘夷をなしとげることができるがじゃ!」



龍馬開眼の瞬間でした。

勝と龍馬、この二人の出会いが日本の歴史を変えていきます。

この二人の出会いにより、日本は欧米列強の植民地になることを防
ぐことができたのです。


▼理想を目指す現実主義者になろう


現実主義者の幕府は、「異国には勝てんから服従するしかない」と
考えていた。(そして、そうした)


理想主義者の半平太は、「神州日本を汚す異人は許せんぜよ!」と
勝てる見込みのない戦にすすんでいった。


普通の国々は、「理想主義のフリをして、現実主義」である。



勝と龍馬のアプローチは、これらすべてと違います。


1、異国と戦をしたら勝てんぜよ

2、なぜ勝てんかというと、異国には黒船があり、日本には黒船がな


3、それなら、日本もじゃんじゃん黒船をつくり、海軍をつくればいいぜ


4、日本が強くなれば、異国は日本を侵略できなくなるぜよ



異国には「今は勝てない」という「現実」を受け入れ、「ではどうする
か?」と考える。

しかし、この時点で黒船はないわけですから、現実主義者は


「坂本君!日本に黒船がつくれるわけないだろう。夢、夢!」


と笑ったことでしょう。

現実主義者には、龍馬の考えが「理想主義」に思えたことでしょう。


ところが、私たちは勝と龍馬の考えが「実現」したことを知っていま
す。

黒船だって、最初は一隻つくればいい。

一隻できたら、10隻でも20隻でも1000隻でもつくることができる。



今回の話をとおして、私がいいたかったことは何か?



【理想を目指す、現実主義者になりましょう】



ということです。

今日本には、こんな理想主義者がいます。


・「日本が友愛で接すれば、外国も友愛で接してくれるだろう」

・「平和憲法があれば、戦争にはならない」

・「中国は儒教の国なので、日本の脅威ではない」


さらには、


・「日本は日米安保を破棄し、中国にくみすることなく、核武装し、
『自立』を目指すべし!」



心情的には、とても理解できます。

その嘆き、その怒りも理解できます。

しかし、これをするとどうなるか、前号で触れました。

http://archive.mag2.com/0000012950/20100420184758000.html
(2010/04/20 【RPE】★日米同盟の危機=いつかきた道)



一方で、現実主義者からは、こんな声が聞こえてきます。


・「日本はアメリカの属国。その状態を受け入れよう。変われません
よ、日本は」

・「日本は、アメリカを捨て、世界経済の中心になる中国と組むべし」



日本国が本当の幸せを手にいれる道は、


「理想(=自立)を目指しながら、現実的に進んでいきましょう」


ということです。

勝てる見込みのない「攘夷」(現在なら、アメリカ・中国とケンカする)
を決行したり、

「アメリカ幕府の天領でもいいじゃん」「中国の小日本省でもいいじ
ゃん」

とあきらめることではないのです。




では、「理想を目指し、現実的に進む」とは具体的にどういうことな
のでしょうか?

ここでは長くなりすぎますので、書ききれません。

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(おわり)



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