ロシア政治経済ジャーナル No.639

2010/3/29号

★中国に決定的に欠けているもの(日本はまた間違える?)

 

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       ロシア政治経済ジャーナル No.639

                         2010/3/29号

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★中国に決定的に欠けているもの(日本はまた間違える?)


今回は、中国がいまのままでは「覇権国家になれない理由」を考えて
みましょう。


▼本音と大義名分


私は前々から、


「外交は国益を追求する手段である」

「そして(外交上の)国益とは、主に金儲け(経済的利益)と自国の
安全確保(安全保障)である」


と書いています。

しかし、どんな会社でも、「わが社の目的は 1に金儲け 2に金儲
け 3、4がなくて、 5に金儲けです!(^▽^)」とはいいません。


「わが社の目的は、○○をとおして、地域社会に貢献することです。
お客様の喜ぶ顔を見る時が最高の幸せです!」(^▽^)


などといいますね。

これを一般的に「本音」と「建前」といいます。


ところで「金儲け」と「夢・理想」どちらの比重が高いのでしょうか?

これは「人や会社によってそれぞれ違う」となります。

「金儲け」のために「世界平和」を叫ぶ人がいる。(たとえばインチキ
宗教の教祖)

その一方で、「世界平和」を真剣に願いながら「金儲け」している人
もいる。

通常は、「金儲け」と「理想」が一人の人間、一つの会社の中に混
在しています。



国に話を戻します。


「実利」(例、金儲け)を追求する外交を、「現実主義外交」といいます。

「理想」(例、世界平和)を追求する外交を、「理想主義外交」といいます。


日本外交は、本音も建前も「理想主義」(例、友愛)。

しかし、日本以外の国々は、建前は「理想主義」だが、本音は「現
実主義」。

たとえば、アメリカのイラク戦争を見れば、


建前=「イラクを独裁者から解放し、民主化せよ!」

本音=「ドル体制を守る」「イラクの石油利権を独占する」等々。


本音に関しては、これまでサンザン書いてきました。

今回は、「建前」(=大義名分)も大事という話。


▼とても大事な大義名分


そもそも、戦争は悪いことです。

しかし、なんらかの理由があって、戦争が起こることもある。

その時、自分自身の良心や一般大衆を納得させることができる「大
義名分」をもつことは、非常に重要。

日本においての「大義名分」は、天皇から「勅令」をいただくことでし
た。


「帝が『源氏』をうてと命令された」

「帝が『平氏』をうてと命令された」


これで、日本人は自分自身も大衆も納得させることができた。

この状況は、幕末になっても変わりません。

薩摩・長州・幕府の重要な課題は、「宮廷工作」でした。


「帝は、『異人』がお嫌いで、神州(日本)から追い出すよう願ってお
られる」


というのが、いわゆる「尊王攘夷派」の「大義名分」。


日本ばかりではありません。

スペインやポルトガルは、ローマ法王から許可を得て、「未開の民を
教化する」という大義名分で、他国を侵略していきました。


アメリカもそうです。

この国は建国以来ずっと、「アメリカは民主主義国家だ!」とは考え
ていませんでした。

アメリカの指導者が「民主主義」という「大義名分」をはじめてつかっ
たのは、第1次大戦の時だったのです。



 <たとえ口先だけにしろ、アメリカが民主主義国家であるとの正式
な是認や一般的な承認がなされるようになったのは、アメリカが第
一次世界大戦に参戦した後である。

 いかなる理由でアメリカがドイツ政府に開戦したにせよ、ウィルソン
大統領はそれを「民主主義のための戦いであり、独裁国家に対抗し
て民主主義国家の安全な世界を築くためだ」と宣言した。>

(「アングロサクソンは人間を不幸にする」 ビル・トッテン
詳細は→ http://tinyurl.com/bqwbm  )←名著です。ご一読を。



ドイツ帝国は当時、専制君主国家(独裁)だった。

それでアメリカは、「自分たちは独裁国家と戦う正義の味方なのだ!」
という「大義名分」を持ち出し、

自分自身と大衆を納得させたのです。

この大義名分は第2次大戦時にも効果を発揮します。



<民主主義に対する強烈な愛着と深い称賛が生み出されるまでには、
大恐慌、内紛、ヒトラーの台頭、海外におけるファシスト勢力の統合な
どの変化が必要だった。(中略)

 フランクリン・D・ルーズベルトは、演説で正式かつ厳粛に

「アメリカは民主義国家である」と宣言し、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
地球上の独裁主義国家に対抗し、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
忠誠なアメリカ国民すべてを再び団結させることを示唆した。>(同上)



まあ、インチキですわ。

「地球上の独裁主義国家に対抗する」なんていいながら、独裁国家の
ソ連と組んでいますからね。

それでも、この「大義名分」は非常に強力でした。

これに対する「ヒトラー」のスローガンはどうです?



「アーリア人種は世界一優秀だ!だから世界を支配する権利がある!」



こんなもん、アーリア人種以外の人は怒りますよね。

ヒトラーは非常に優秀だったかもしれませんが、大義名分に「普遍性」
が全然なかった。

こんな「建前」で勝てるはずがない。

だって、アーリア人種以外の人は、全て「反ヒトラー」で結集するでしょ
う?


▼普遍性のあった「共産主義」思想


ナチスドイツが滅びた後、世界は米ソ冷戦の時代に突入します。

アメリカの大義名分は「民主主義」。

ソ連は「共産主義」。

共産主義者はいいます。


「世界は、欧米の資本家によって牛耳られている。

欧米の資本家は、自国の労働者を搾取するだけでなく、世界中に植
民地をつくり、現地人を奴隷化している。

だから、被搾取階級は一つになって、資本家階級を打倒せよ!」



この論理は、当時非常に説得力があったのです。

なぜか?


・当時、世界のほとんどは欧米の植民地だった

・当時、労働者の待遇はとても非人道的だった


< 共産主義者は、これまでのいっさいの社会秩序を強力的に転覆
することによってのみ自己の目的が達成されることを公然と宣言する。
 
支配階級よ、共産主義革命のまえにおののくがいい。
 
プロレタリアは、革命においてくさりのほか失うべきものをもたない。
 
かれらが獲得するのは世界である。
 
万国のプロレタリア団結せよ!>

(共産党宣言 マルクス
詳細は→ http://tinyurl.com/c9wzvv )←歴史的本です。一般教養
としてご一読ください



共産主義教のターゲットは、

1、世界中の植民地
2、欧米先進国の労働者・農民・貧民


当時、全世界の民の90%以上は、このカテゴリーに属していたことで
しょう。

それで、共産主義は強力に全世界にひろがっていったのです。

では、なぜ共産陣営は負けたのか?



西側諸国で変化が起こった。

アメリカでは、ルーズベルトがケインズ主義を採用して以来、労働者
の権利が拡大していきます。

さらに、ジョンソン大統領は「貧困を撲滅し『偉大な社会』をつくる」と
宣言した。

要するに、労働者の権利が向上していった。

世界から植民地はほとんどなくなった。

決定的だったのは、西側陣営の経済が、共産陣営と比べ驚異的に
発展していったこと。

その差は、同じ民族なのに体制が異なる

・西ドイツと東ドイツ
・韓国と北朝鮮
・中華民国(台湾)と中華人民共和国

の格差を見れば明らか。

こうして、共産主義の大義名分は、パワーを失っていったのです。


▼あまりに弱い「一極世界」という大義名分


さて、冷戦のライバルソ連が滅び、経済のライバル日本ではバブル
が崩壊した。

欧州では、豊かな西欧が貧しい東欧を吸収し苦しい。

中国は、あまりに貧しく、無視できるレベル。


世界は1991年から「アメリカ一極時代」に突入していきます。

世界が不況で苦しむ中、アメリカはITバブルで空前の好景気。


「アメリカ一極時代は永遠につづく!」


と勘違いしても仕方ありません。

しかし、増長したブッシュは、大きな間違いを犯します。

それが「イラク戦争」。

アメリカの同盟国イギリスからは、こんな情報がでてきています。



<「イラク戦争は国際法違反」=当時の英政府法律顧問−調査
委公聴会

【ロンドン時事】英国のイラク参戦問題を検証する独立調査委員
会の公聴会で26日、証人として呼ばれた外務省の元首席法律
顧問が声明を出し、

「イラク侵攻は国際法に反すると(当時)考えていた」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ことを明らかにした。

 29日のブレア前首相の召喚を控え、大きな議論を呼びそうだ。

2001年から06年まで同省顧問を務めたマイケル・ウッド氏は声
明で、

「武力行使は国連安保理によって承認されておらず、他のいか
なる国際法にも根拠はなかった」

と指摘。当時のストロー外相にも同様の見解を伝えたが、「独断
的」だとして拒絶されたという。>(2010/01/27)



アメリカ幕府の天領日本は、イラク戦争を無条件で支持しましたが。

上のような見解は、当時も今も世界的常識です。

それで、RPEは「イラク戦争でアメリカは大変なことになる」と主張
しつづけていました。


「大義名分のない戦争」

「一極世界の長アメリカの横暴」


欧州(独・仏中心)・ロシア・中国・その他の国々が、反米で結集し
ていきます。

プーチンはいいます。



「一極世界も成立しなかった。

どんなに言葉を飾っても、(一極世界の)意味するところは一つだ。
 
一つの権力の中心、一つの力の中心、一人の主・一人の主権者
の世界」


「これはシステム自体にとっても、主権者自身にとっても破滅的だ。

なぜなら、内部から崩壊するからだ」


「今の世界にとって、一極モデルは受け入れがたいだけではない、
不可能なのだ!」


「(一極世界は)民主主義とは何の共通点もない。

なぜなら民主主義は、大多数の権力だからだ!」



独裁者プーチンがいうのもおかしいですが、「一極世界は『民主的
ではない』」との指摘はそのとおりでしょう。


08年、アメリカの一極世界は終わりました。

経済力・軍事力ダントツNO1のアメリカですら、正しい「大義名分」
なしにはいられなかったのです。


(新規読者さんは、「アメリカは大義名分云々じゃなくて、サブプラ
イム問題で自滅したんじゃないの?」と思っているでしょう。

そんな方は、「中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日」をご一読く
ださい。(詳細は→ http://tinyurl.com/yro8r7 )

アメリカは「意図的に没落させられた」こと、山盛り資料つきで証明
しています。)



何はともあれ、イラク戦争勃発後、中国・ロシアの主張する


「アメリカ一極世界に反対、多極世界をつくろう!」


という「大義名分」は非常に説得力があったのです。


▼日本はまた間違える


ところが、時代は常に変転していきます。

オバマさんは、アメリカを中心とするG8体制から、多極化したG20
体制への移行を認めました。

世界は、09年から新時代「多極世界」になったのです。

多極世界の中でも最重要国家は、アメリカと中国。

二国あわせて「G2」という。

アメリカは、中国から大量に金を借りていることから、この国に寛
容でした。

ところが、最近中国は金を貸してくれなくなってきた。



<米国債保有、日本が中国抜き首位=1年4カ月ぶり

2月17日0時53分配信 時事通信

 【ワシントン時事】米財務省が16日発表した国際資本収支統計によ
ると、昨年12月末時点の各国別の米国債保有高は、日本が7688億
ドル(11月末は7573億ドル)となり、2008年8月以来、1年4カ月ぶりに
首位となった。

中国は7554億ドル(同7896億ドル)で2位。

最大保有国の地位逆転は、貿易などで摩擦が強まっている米中関係
にも影響を及ぼしそうだ。

 日本は2カ月連続で米国債保有高を増やした一方で、
中国は保有高を削減してきており、首位が逆転した。 >
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


金の切れ目が縁の切れ目。

アメリカは中国バッシングをはじめます。

「グーグル問題」「台湾への武器売却問題」「サイバー攻撃問題」「ダラ
イラマ問題」等々。


グーグルは、中国からの撤退を決めました。

この会社の創業者セルゲイ・ブリンさんは、ロシア生まれ。

ロシアの若者の英雄でもあります。

そのブリンさんが、中国についてこんなことをいっています。




<中国に「全体主義」の兆候=グーグル創業者ブリン氏−米紙

3月25日11時26分配信 時事通信

 米インターネット検索最大手グーグルの共同創業者、セルゲイ・
ブリン氏(36)は24日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子
版)のインタビュー記事で、同社が中国本土での検索事業から撤
退を決めたことに関連し、中国政府によるネット検閲などに同氏
が育った旧ソ連の全体主義と似たものを感じたと述べた。

 同氏は中国政府について、「貧困撲滅などで大きな成果を上げ
た」と評価する一方、「検閲や反体制活動家への監視など、一部
の政策に(ソ連と)同じような全体主義の特徴を感じる。個人的に
は非常に煩わしいものだ」と語った。

 ブリン氏はソ連生まれ。6歳の時にユダヤ系の両親とともに米国
に移住した。 >



「中国は全体主義国家」である。

この指摘は、「事実」であり、「決定的」です。

世界では20世紀、「民主主義」対「独裁国家」の戦いが3回行わ
れました。


第1次大戦時(民主米英 対 専制ドイツ)

第2次大戦時(民主米英 対 独裁ドイツ)(独裁ソ連は米英につ
いたが・・)

冷戦時(民主アメリカ 対 独裁ソ連)


そして、3回とも「民主」の側が勝利しています。

もう一つ、重要な特徴を。


1871年に統一されたドイツ、ヒトラーのドイツ、スターリンのソ連


は、いずれも「驚異的経済成長」で世界を驚かせていた。

ヒトラーは世界恐慌をいち早く克服した。

スターリンのソ連は、世界恐慌の影響を全く受けなかった。


何がいいたいかというと、「中国が驚異的経済成長している」からと
いって、この国が世界の覇権国家になれるとはかぎらない。


この国に決定的に欠けているのは「大義名分」です。

中国は、資本主義を導入し貧富の差が非常に大きい。

だから、「貧乏人の味方」という共産主義的「大義名分」は持てない。

中国は現在、「和諧社会」(調和ある社会)を大義名分にしています
が、「チベット」「ウイグル」問題で誰も信じない。

結局この国の「大義名分」は、



「中華思想」(中国が世界の中心である)



しかないのでは?

この思想は、「アーリア人種は世界一優秀だから世界を支配する権
利がある」と主張したヒトラーと同じレベル。

「普遍性」が全然ないので、世界から反発を受けることは必至。


世界はこれからどうなっていくのでしょうか?


1、中国経済はマスマス発展し、影響力は強まっていく

2、それに比例して「中国バッシング」も強まっていく

3、特に「中国は独裁国家だ!」「人権を蹂躙している!」という指摘
により孤立していく

4、アメリカ・欧州・インド・ロシアなどは「民主主義を守る」という「大
義名分」で結集し、「中国包囲網」が形成される

5、中国でバブル崩壊。

6、中国は民主国家になる。(2020年ごろか)



問題は、わが国日本がどっちにつくか?ということ。


日本は第1次大戦時、日英同盟がありイギリス側について勝利しま
した。

日本は第2次大戦時、ヒトラーのドイツと同盟をくみ負けました。

日本は冷戦時、日米同盟がありアメリカの側について勝利しました。


わかりますね。

日本は民主の側についた時は勝利し、独裁の側についた時は負け
ている。

民主党は現在、中国が経済発展しているという事実だけを見て、



「アメリカをすてて中国につこう」



と決意しています。

しかし、ヒトラーのドイツも、スターリンのソ連も、脅威的に経済発展
していたことを忘れてはいけません。

それで、ドイツとソ連はどうなりました?


もちろん、「中国は独裁だから経済関係を一切切れ!」なんて過激
なことはいいません。

どんどんお金儲けすればいい。

しかし、「日米同盟」を破棄して「日中同盟」を。

これがいかんのです。

長期的にみれば、「大義名分」「哲学」「思想」は、「金儲け」よりも
っと大事です。


日本は、「自由か?」「独裁か?」と問われた時に、迷うことなく「自
由」を選択するべきなのです。

でないと、独裁者ヒトラーとつるんで大敗をきっしたように、第2次
大戦の悲劇が繰り返されることになります。



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(おわり)


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