◆ ロシアの現状と展望ロジャー・パルバース氏
  2012年4月15日付「ジャパン・タイムス」

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2012年4月15日付「ジャパン・タイムス」に、ロジャー・パルバース氏の
「ロシアの現状と展望」に関する記事が掲載されました。


「もし、日本という国がなかったら」(→ http://tinyurl.com/7vaukyh  )


など日本に関する著作を多数出版されている、パルバース氏。
「世界一の親日家」として知られています。

パルバース氏は、その記事の中で、北野幸伯著「プーチン最後の聖戦」
について、大変多く言及しています。


●ジャパンタイムス英語原文はこちら
→ http://www.japantimes.co.jp/text/fl20120415rp.html

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2012年4月15日付「ジャパン・タイムス」
ロジャー・パルバース氏  「ロシアの現状と展望」
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●日本語訳はこちら↓


★プーチンの「屋根」は、支持率低下の激しい雨に耐え続けられるか?


文/ロジャー・パルバース
ジャパンタイムス 2012年4月15日


「プーチンとロシアは、いま苦境にある。」

少なくとも "親愛なる指導者"(プーチン)と彼の国(ロシア)につい
て論評する人々は、こういうふうに言うだろう。

でもほんとうにそうだろうか? 

もちろん、薄皮一枚でとどまっているが、大騒動に発展しかねな
い混乱の兆しはある。

一時的には、視界から消え去ることもあるかもしれないが。


 
社会的な不安や動揺を引きおこす「魔法の杖」が、ロシア全土をか
きまわそうとしている。

1917年のロシア革命までの10年間に、この国で起こった全員参加
型政治の混乱を知っている人であれば、恐怖でおののくか(もし官
僚や政治家であれば)、歓喜の声を上げるか(民主主義の進歩を
信じる人であれば)のどちらかだろう。

たしかに、1917年のできごとは、その「魔法の杖」が、民衆に対し
て猛威を振るう、血に飢えた権威の笏(しゃく)に変貌する可能性
があることを示している。


 
近年、アンナ・ポリトコフスカヤのような有名ジャーナリストや、勇
敢な弁護士のセルゲイ・マグニツキーが殺された。

著名な大事業家であるミハイル・ホドルコフスキーや改革派実業
家のアレクセイ・コズロフなどは、でっち上げの罪で逮捕され、収
容所行きになった。

不満を抱いた市民数万人は、ロシアの各都市でデモを行なって
いる。

それらは「ロシアの春」の前触れではないかもしれないが、ロシ
アの反対派はもはや冷たく固い氷のなかに閉じこめられている
わけではない。


 
メンバー全員が女性の、ロシアの過激派フェミニスト・パンクロ
ック・グループ、「プッシー・ライオット」の3人のメンバーは、モス
クワの救世主ハリストス大聖堂の祭壇上で過激なパフォーマ
ンスを行ったため、 "風紀紊乱(びんらん)行為"の罪で2ヶ月間
当局に勾留された。

もし有罪判決を受けたなら、彼女たちは7年間の刑務所行きに
なる可能性もある。


プッシー・ライオットのパフォーマンスは非常に挑発的だ。

顔を隠し、カラフルな服を身にまとった彼女たちは、反体制的で、
ほぼ世界のどの新聞でも使えないような言葉で書かれた歌詞
を大声で叫ぶ。

2月下旬、彼女たちは祭壇の上でこう歌った。


"ああ、聖母よ。プーチンなんかさっさと追い出してくれ!"


"神への冒?(ぼうとく)、宗教的感情への侮辱である"として、
真っ先に刑事告発の脅しをかけたのは教会関係者だった。

プーチンがプッシー・ライオットをどう思っているかは、だれにも
わからない。

しかし、頭の硬い教会と専制的な国家が関われば、うまくやっ
てのける者などいなくなるだろう。




今週(4月5日)、集英社インターナショナルから出版された一冊
の本、『プーチン 最後の聖戦』(→ http://tinyurl.com/8y5mya3 )

は、プーチンの急速な台頭ぶりを詳細に記している。


著者は、ロシアに20年以上住んでいる北野幸伯氏だ。

北野氏は、名門「モスクワ国際関係大学」を卒業した初めての日
本人である。

現在彼は、32,000人の購読者数を誇るロシアの政治外交に関す
るメールマガジンを発行している。


 
北野氏は、この本で、KGBのスパイだった若き日から大統領に
なるまでのプーチンの軌跡を俯瞰している。

そこには、首相として建前上権力の座からしりぞいていた間の
プーチンについても語られている。

本書では、彼がいかにしてロシア国内のライバルたちを排除し、
権力基盤を確固たるものにするためにどんな行動を取ったの
かについて、非常に深く分析されている。



 
北野氏によると、プーチンの目標は、アメリカの覇権の崩壊を
もたらすことである。

(イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフとアメリカにいる熱狂的
な多くの共和党員がいる以上、プーチンはその崩壊の来る日
をただ辛抱強く待てばいいかもしれないが。)

 
本書は、のんきで、「平和ボケ」の状態から抜けだそうとしない
一般的な日本人をあぶり出している。

その日本人たちは、いまだに全能のアメリカを信じ、自分たち
の利益を守ってくれるというアメリカの善意をそっくりそのまま
信じているように見える。



「平和の時代が終わりつつある」

「アメリカが日本を守ってくれなくなる日が近づいている」



と、北野氏は説く。




北野氏はまた、世界はすでに戦争状態にある、と主張する。

この戦争とは、石油やガスなどの資源争奪戦争であり、今世紀、ど
の国家が覇権をにぎるかを決める戦争である、と。

そしてプーチンは、ロシアをこそ、そのトップにしてみせると考えて
いるのだ。

 
最高時の80%前後から20〜30%ダウンしたものの、プーチンがい
まだに高い支持率を保っていることは、別に不思議でもなんでも
ない。

1991年のソ連の崩壊後、ロシア社会は、ボリス・エリツィンのずさ
んで無能なリーダーシップのもと、めまいを起こすような衰退状態
におちいった。

1997年までに、ロシアの富の50%は、ロマン・アブラモビッチ、ボ
リス・ベレゾフスキー、ホドルコフスキーなど、たった7人の新興財
閥たち(オリガルヒ)によって支配されてしまっていたのだ。

 
プーチンは、これらの新興財閥たちが、外国、特にアメリカに、ロ
シア経済の権益を手渡そうとしていることを確信していた。

プーチンは考えた。

もしロシアの莫大な石油と天然ガス資源を外国の手に落ちるが
ままに放っておいたら、ロシアは断トツで世界最大の天然ガス
埋蔵国から、ただの資源属国に成り下がってしまうだろうと(また、
ロシアは他のどの国よりも多くの石油を生産し、輸出している)。

 
そしてプーチンは、ロシア国内に別の国家を築きあげようとしてい
た新興財閥たちを見て、その中心ともくされるメンバーたちに断固
たる処置をほどこしたのだ。

 
90年代、ロシアのGDPは下落し、自由市場経済がはじまった初年
度値の57%を数えるほどになってしまった。

北野氏は、大統領エリツィンの支持率は、その任期の終わりには
わずか0.5%しかなかったと指摘している。

仮にエリツィンでなくても、それほどまでに最低の支持率を前にし
ては、だれも酒に酔っていることなどできなかっただろう。


 
1998年8月、ロシアは、国家債務の不履行(デフォルト)を宣言。

その後、原油価格の急騰と、いくつかの賢明な通貨改革の実施
により、ロシア経済回復のための道が開かれた。

その「動く歩道」に飛び乗ったプーチンは、それをより加速度の
増した「エスカレーター」に変えることに成功した。


(プーチンによる)幅広い金融改革と政治改革は、2008年まで、
年間平均7%の高度成長時代を生み出すもととなった。

その結果、教養もあり、そこそこ裕福な中産階級が生まれた。

だが皮肉なことに、彼らは、しばしば冷酷な独裁政治を行うプーチ
ンに反対する中心的な階級となったのである。



北野氏は『プーチン 最後の聖戦』(→ http://tinyurl.com/8y5mya3 )

のなかで、昨年北京でプーチンが米国を "寄生虫"と呼んだことを
挙げながら、その煮えくり返るような反米感情の源はどこにあるの
かを分析している。

プーチンの目には、エリツィンは、アメリカによってほろ酔いの操り
人形のように演じさせられた、と映っているのだ。

9.11(米同時多発テロ)が起こったときには、ブッシュとプーチンの
間に蜜月状態が生まれたが、その甘い時期も、まもなく終わりを
告げた。

「アメリカはロシアの選挙に介入してくる」というプーチンの被害妄
想は、アメリカは依然として、反ロの国々を利用してロシアを囲い
込み、資源や権威の点でアメリカのライバルにさせないよう企ん
でいる、という強い思いから生まれている。

この文脈からすれば、シリアとイランに対するロシアの支援は、ロ
シア指導部にとって完璧に理にかなっている。

シリアとイランは、中東におけるロシアの最後の味方かもしれない。

 

北野氏は、日本人一般を厳しく批判する。

その批判とは、独善的なアメリカの主張と、アメリカこそが平和を維
持し、私心なく世界に自由をもたらすというレトリックに、日本人が
簡単に丸めこまれている、ということだ。

北野氏は、日本人に、ここ数十年、アメリカとロシアの2大国が石
油とガスの供給をコントロールしようとしている現状を直視しなけ
ればならない、とせまっている。

 

ロシアにおいて、腐敗は神以上に偏在している。

インターネットは比較的自由に使えるが、ジャーナリストたちは政
府黙認のチンピラや殺し屋(刺客)の襲撃を恐れている。

ロシアでは、自分の利益の世話をしてくれる力のある人がいれば、
なんとかうまくやっていける。

しかし、だれもが「クリーシャ」(ロシア語で、文字どおり「屋根」の
意味。マフィア用語では「“みかじめ料”目当ての脅しをする人」の
意)にお金を払えるわけではない。

 
2012年における問題とは、半永久的に存在すると思われている
プーチンの“屋根”が、ロシア中で荒れ狂う抗議や論争の竜巻に
よって飛ばされてしまわないか、ということだ。

パンクロック・グループ、プッシー・ライオットのメンバーは、約30人。

彼女たちの曲の一つは、こう高らかにうたっている。


“エジプトの空気は肺によい/だから、赤の広場もカイロのタハリ
ール広場みたいにしちゃおうぜ!”

 
プーチンどの、ご注意ください。
 
屋根が安全なのは、それをしっかり支える柱があればこそ、なのだ。
   

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